家族信託における受託者に相続が発生した場合の責任の相続
受託者の責任
受託者は、信託事務処理の一環として、借入を行った場合には、信託財産で弁済する義務を負うだけでなく、受託者個人の財産でも弁済する義務を負います。なお、詳しくは、 家族信託の受託者が負う義務と責任 をご覧ください。それでは、この受託者に相続が発生した場合その責任は、新たに就任した受託者にも引き継がれるのでしょうか。今回は、信託契約締結後に受託者に相続が発生した場合の責任について解説しております。
家族信託の債務
家族信託の財産と債務の種類
家族信託においては、様々な財産と債務がございます。財産については、信託の目的となっている財産(信託財産)と受託者個人が有する信託財産でない財産(固有財産)があります。信託法では三種類の債務があります。信託財産で責任をとる財産(信託財産限定責任負担債務)と信託財産と受託者の固有財産で責任をとる財産(信託財産責任負担債務)、受託者の固有財産または他の信託の信託財産のみで責任を負担する債務(固有財産等責任負担債務)があります。
受託者が責任を負う債務は信託財産責任負担債務から信託財産限定責任負担債務を差し引いたものが、受託者の固有財産と信託財産で責任を負う債務となります。
信託財産責任負担債務 | 信託財産と受託者の固有財産で責任を負う債務 |
信託財産限定責任負担債務 | 信託財産のみで責任を負う債務 |
固有財産等責任負担債務 | 受託者の固有財産または他の信託財産に属する財産のみで責任を負う債務 |
受託者の固有財産と信託財産で責任を負う債務は具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
信託法21条で規定されていますが、信託された不動産の敷金返還債務や信託事務処理のために受託者が行った信託財産のための借入債務が代表的なものです。
その他には、委託者が信託前に借り入れていた債務であって、信託契約で信託財産をもって負担するとした債務です。なお、この委託者の債務については、受託者が債務引受をする必要があります。
受託者に相続が発生した場合のその債務の帰属
受託者に相続が発生した場合どうなるの?
相続が発生した場合、原則として相続財産はプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続されます。これは受託者の場合も同じで、受託者の固有財産とその債務は、相続人に承継されます。しかし、信託財産は、受託者に所有権はありますが、その財産は委託者から預けられたものであり、受託者の固有財産とは異なります。そのため、信託財産は、受託者の死亡により受託者の任務が終了した場合には、信託財産は法人となるのです。しかし、新しい受託者が就任した場合には、その信託財産の権利義務は新受託者に遡って承継されます。
つまり、受託者が死亡した場合でも信託財産は、受託者の相続人には相続されず、信託財産という法人となるか、または新受託者に承継され、信託契約は続くこととになります。
信託の債務はどうなるの?
信託法では、新受託者に信託財産が承継された後においても、前受託者は、信託財産限定責任負担債務を除いて、自己の固有財産をもって、その承継された債務を履行する責任を負います。そのため、相続により受託者が変わった場合には、旧受託者の相続人がその債務を承継することになります。逆に、新受託者は、新受託者の固有財産で責任を負わず、信託財産の範囲内でしか責任を負いません。なお、相続人が自己の固有財産をもって信託財産責任負担債務(信託財産限定責任負担債務を除く。)を履行した場合には、新受託者から信託財産の範囲内で償還することができます。
まとめ
今回の記事では、受託者に相続が発生した場合に債務がどのように移動するのか、の信託の仕組みについて説明致しました。信託契約は長期間になる場合が多いので、あらゆる場面を想定して契約書を作成する必要があり、受託者はその責任を理解する必要があります。信託について不安があったり、興味がある場合は、家族信託を専門としているリーフ司法書士事務所へ是非一度お問い合わせください。